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【独自】盗まれた10億円「三菱UFJ貸金庫事件」ベテラン行員が狙い撃ちした「1種類の金庫」と「グレーな現金」…元銀行員が明かす “安全神話” の隙間

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.11.29 15:17 最終更新日:2024.11.29 15:17

【独自】盗まれた10億円「三菱UFJ貸金庫事件」ベテラン行員が狙い撃ちした「1種類の金庫」と「グレーな現金」…元銀行員が明かす “安全神話” の隙間

事件が明らかになった三菱UFJ銀行練馬支店(写真・皆川拓哉)

 

 大手メガバンク「三菱UFJ銀行」の行員による巨額窃盗事件が発覚した。

 

 11月22日、同行は元行員による「窃取事件」を公表した。リリースによれば、事件が発覚したのは、2024年10月31日。舞台は、練馬支店(旧江古田支店を含む)と玉川支店の2支店だという。

 

 2020年4月から2024年10月までの約4年半にわたり、支店の貸金庫の管理責任者だった行員が、契約者およそ60人の貸金庫から時価10数億円程度の金品を盗んだという。

 

 元行員は、事件発覚後の11月14日に懲戒解雇されている。被害者数と金額は、元行員が銀行側の事情聴取に供述したもので、現在も引き続き、調査は継続中だ。

 

 

 社会部記者がこう話す。

 

「銀行員が客の預貯金を盗むという事件はたまに起きますが、貸金庫から盗むのは珍しいケースです。『貸金庫は安全』という神話みたいなものがありますからね。

 

 直近でも、2011年に巣鴨信用金庫の元課長代理が顧客の貸金庫から現金200万円を盗んだり、2009年に佐賀銀行の支店長代理がやはり顧客の貸金庫から現金3700万円を盗んだりと、いくつか事例はありますが、今回は10億円を超える大事件ですからね。

 

 ベテランだった元行員は貸金庫の管理責任者の立場を悪用して犯行に及んだとのことですが、貸金庫の管理体制に抜け穴があったことは間違いないでしょう」

 

 三菱UFJ銀行はリリースで《貸金庫は、お客さまに無断で開扉することができないよう、厳格な管理ルールを定めており、第三者による定期チェックの仕組みも導入しておりましたが、未然防止に至りませんでした》と、反省の弁を記している。

 

 今回、同行の広報担当者に事件の詳細について尋ねたが、「元行員を現在も継続調査中ですので、発表したこと以外はご回答を差し控えます」と答えている。

 

 前出の記者が続ける。

 

「貸金庫といっても一概に同じものではありません。三菱UFJ銀行では、貸金庫に4種類のタイプがありますが、今回、ターゲットになったのは、4種類のうち1種類だけだったと言われます。

 

 そして、元行員が盗んだのはおもに現金で、ほかは貴金属類だと聞いています。貸金庫の規約上、現金を預けるのは “グレー” ですが、実際のところ、現金を貸金庫に入れている人は少なくないようです。

 

 現金の窃盗であれば、被害額が明確にわかりそうなものですが、銀行も貸金庫の中身を知ることができません。そのため、被害にあった顧客に聞き取りし、元行員の供述内容とすり合わせていかなければ、全容解明はできないと思われます」

 

 それにしても、なぜ、4年半もバレずに60人の顧客の貸金庫から10数億円を盗むことができたのか。

 

■貸金庫の「鍵」の仕組みとは

 

 貸金庫の管理体制などについて、元銀行員の金融ライター・椿慧理氏に話を聞いた。椿氏は「鍵の管理体制は銀行によって異なります」と前置きしつつ、貸金庫の「鍵」の仕組みと厳重さについて、こう話す。

 

「貸金庫の鍵は金庫のタイプによって異なりますが、一般的にはカードタイプで入室し、物理的な鍵で顧客ごとの金庫を開閉します。この入室時のカードは、当然、銀行側も保有しています。

 

 金庫自体の鍵は顧客が正鍵を持ち、そのコピーである副鍵を銀行側が保管している形で、インターネット上で指摘されるような、すべての金庫に共通する “マスターキー” はありません。

 

 この副鍵は貸金庫の契約時に顧客にも確認していただき、面前で保管袋に封緘し、顧客、担当者、役席者の3者で割印をします。その後、副鍵は保管ボックスに入れて、銀行の金庫で保管されます。副鍵は厳重な管理がおこなわれているものです。

 

 貸金庫に入るためのカードタイプの鍵の取得は、2人の役席者による承認が必要で、副鍵を取り出すためのさらなる鍵を取得するには、上記2名とは別の役席者の承認が必要です。

 

 つまり、3名の役席者が承認しなければ、貸金庫に入り、顧客の金庫を開けることができません。この承認はICカードによっておこなわれ、『いつ』『誰が』『どの鍵を』というデータがすべて電子的に記録されます」

 

 今回、窃盗を自供した元行員について、椿氏は「貸金庫の管理責任者とのことなので、おそらく副鍵を取り出すための鍵は自分のICカードで取得できたのだと思います」と話し、手口についてこう推察する。

 

「貸金庫に出入りするには、別の役席者に鍵を取得してもらわなければなりませんが、たとえば、別の顧客が貸金庫から出てきたとき、『こちらで閉めておきますよ』と声をかけ、そのまま自分が入室することはできるでしょう。

 

 顧客も不振には思わないでしょうし、ほかの行員が見かけたとしても、ベテラン行員への信頼感から疑わないような気がします。

 

 また、顧客が出入りするタイミングでなくても、今回の元行員のようなベテランから要件を伝えられ、鍵の取得を頼まれたら、ほかの役席者はまず疑わないと思います。

 

 一方で、ICカードで取得した鍵は、一定時間で管理庫に戻らなければ、警告音が鳴るようになっていますから、かなり短時間で犯行をおこなったと想像できます。

 

 また、副鍵の保管については、行内の監査チェックが入ります。しかし、4年半に及んで犯行を続けたとのことなので、その間に監査が入っていない可能性もあります。

 

 ただ、私としては、三菱UFJ銀行のガバナンスが特別ゆるかったわけではなく、どこの銀行でも起こり得ることではないかと思っています」(椿氏)

 

■専門家も驚く10億円の「現金」窃盗

 

 椿氏は、貸金庫の窃盗はもちろんだが、それ以上に驚いたことがあるという。

 

「そもそも銀行の信頼が失墜してしまう不祥事で、元銀行員としては聞いたこともないような大事件だと感じています。ただ、それより驚いたのは、10億円程度の被害がおもに現金だったということです。

 

 最初にこのニュースを目にしたとき、持ち出しやすい貴金属を盗んだのかと考えました。銀行内部には無数の監視カメラが設置されています。現金となれば、それなりにかさばりますから、顧客の金庫を開けられたとしても、どうやってバレずに運んだのか、それがいちばんの疑問です。

 

 ただ、継続的な犯行がバレなかったことについては、推測できる面もあります。貸金庫の顧客には毎日のように開扉する方もいれば、ほとんど開扉しない方もいます。後者のような顧客を重点的に狙った可能性はあるでしょう。

 

 もしかしたら、発覚前から『貸金庫に入れたものがない』という顧客からのクレームがあったかもしれません。しかし、貸金庫の中身を銀行は知りませんし、顧客も高齢者の方が多いですから、指摘を受けてもほとんどは『もう一度探してみてください』と対応してしまったのでは。

 

 その程度であれば、上席に報告しないでしょうから、なかなか事件が発覚しなかったのかもしれません」(同)

 

 元行員は、銀行側の事情聴取には素直に応じているものの、奪った10億円の使途については現時点では不明だ。

 

「元行員の供述と、顧客が把握している貸金庫の中身のすり合わせ作業にはまだ時間がかかりそうです。今回の窃盗の被害者は貸金庫を契約していた客ですから、すり合わせ作業が終わり、被害額が確定してから、客が警察へ被害届を出す形になります。元行員の逮捕は、その後になるでしょう」(前出・社会部記者)

 

 ドラマのセリフのように、「詫びろ!」と連呼するだけでは済まない大問題なのだ。

( SmartFLASH )

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